現在までの研究の概要 (2015年4月26日更新)

(1) 1986年10月~1987年3月 東京大学教養学部化学教室原田義也研究室

「非経験的分子軌道法と電子分光法による環状珪素化合物の研究」

Pople(1998年ノーベル化学賞受賞)によって開発されたGaussian計算プログラムを用いた非経験的分子軌道計算と、試料に紫外線を照射して放出された電子をエネルギー分析して試料の電子状態を実験的に調べる紫外光電子分光法により、 環状珪素化合物(シクロシラン)の分子軌道とエネルギー準位を理論と実験の両方から調べ、5員環のときに Highest Occupied Molecular Orbital (HOMO)の準位が一番深くなりバンドギャップが一番大きくなることを発見した。 この結果は環状珪素化合物を用いた発光デバイスを開発する上で重要な知見となる。

(2) 1987年4月~1992年3月 東京大学教養学部化学教室大野公一研究室大学院理学系研究科修士・博士課程(大野教授の現在の所属は、東北大学理学研究科化学専攻)

「速度分解・角度分解ペニングイオン化電子分光法によるペニングイオン化過程の研究」

ヘリウム原子は通常、1s軌道に2個の電子が入った状態が最も安定(基底状態)であるが、この1s軌道にある電子を1個だけ1つ上の2s準位にあげると、何かに衝突しない限りは基底状態に戻らない準安定状態を作ることができる。この準安定ヘリウム原子を試料に照射して放出された電子をエネルギー分析する方法をペニング電子分光法という。この方法は前述の紫外光電子分光法と異なり試料の表面最上層の情報のみを得ることができる利点がある。当時放電型ヘリウム準安定励起原子ビームの強度は1.6×1014 s-1sr-1であったが、排気システムと電極構造の改良により、従来の十倍の1.6×1015 s-1sr-1で(世界記録(当時))の強度をもつビーム源の開発に成功した。更にペニングイオン化電子分光法と飛行時間分解法を組み合わせた「速度分解ペニングイオン化電子分光法」を開発した [1]。この新測定法と強力なビーム源の開発により、ペニングイオン化部分断面積の速度依存性の実験を可能にした。その結果、励起原子をプローブとして分子との相互作用ポテンシャルの異方性に関する情報、例えば窒素分子に励起原子が近づくときは分子軸方向では硬い(相互作用ポテンシャルの斥力部分の勾配が急)が分子軸に垂直な方向では柔らかい(相互作用ポテンシャルの斥力部分の勾配が緩い)、という情報を気相において得ることを可能にした。1992年3月に博士(理学)の学位を取得。

(3) 1992年4月~1994年4月 理化学研究所 表面界面工学研究室 基礎科学特別研究員(アドバイサー:青野正和主任研究員[現在 物質材料研究機構 ナノシステム機能センター フェロー])

(a) 「走査トンネル顕微鏡によるシリコン表面への金蒸着初期過程の研究」

走査トンネル顕微鏡(STM)を用いてSi(111)表面上に金原子を吸着させたときに現われる超構造について研究。その結果、√3×√3-Au超構造の表面は√3×√3周期に配列している領域Aと6×6に近い構造を持つ領域Bから成り、領域Bが増えていくことで漸近的に√3×√3-Au表面から6×6-Au表面へ構造相転移することを見出した。さらに6×6表面においても複数の相が存在することを発見[2]。

(1993年4月~1993年9月 東京農工大学 物質生物工学科 非常勤講師[兼務])
(b) 「世界一薄い布Atomic Clothの走査トンネル顕微鏡による観察」

  アルキル鎖とそれに交差するポリアセチレン、ポリジアセチレン鎖からなる単原子層ポリマーシート、すなわち「世界一薄い布」のSTM観察に成功[3]。(Atomic Cloth作製者である東京農工大学尾崎博士との共同研究)

(4) 1994年4月~1994年9月 IBMチューリッヒ研究所 博士研究員

(a) 「高インピーダンス(1TΩ)走査トンネル顕微鏡による金表面上の有機分子自己組織化膜の観察」

金表面にメルカプト基を持つ鎖状分子を化学吸着させて得られる自己組織化単分子膜(SAM)を、最小トンネル電流1pAで測定可能なSTMにより観察。トンネル電流についての詳細な情報を得るために、電流信号を音声信号に変換してモニターする等、実験上の様々な工夫を行った。アゾベンジル基を持つSAMの像や[4]、メチル基を持つSAMと水酸基を持つSAMの共吸着像等[5]、個々の分子が認識出来る高分解能観察に成功。

(b) 「銅表面上に真空蒸着したポルフィリンの走査トンネル顕微鏡観察」

ポルフィリン錯体化合物をCu清浄表面上に蒸着させてSTMで観察し、高分解能像を得ることに成功[6]。 (Gimzewski博士(現在UCLA教授)、大阪大学産研坂田研究室杉浦博士(現在東京都立大学理学部化学教室教授)らとの共同研究。)

(5) 1994年11月~1997年3月 東京大学理学系研究科物理学専攻 井野研究室助手

(a) 「超励起酸素原子(O**)ビームの開発」

酸素と希ガスの混合プラズマ放電により超励起酸素原子(O**)ビームを作製する装置を開発し、このビームを表面に照射することで残留ガスの少ない酸化膜を作製する方法を開発した(特許) [7]。この方法によれば金属原子をほぼ100%の確率で酸化させることが可能である。従って酸化薄膜の作製における精密な制御が可能となり、特に酸化物超伝導体の作製などには有効と期待される。また、この方法は酸素を窒素に変えることで窒化膜作製にも応用可能。

(b) 「多重双晶粒子(MTP)ミセルの創製」

直径数~数100nmの金属微粒子の表面にアルカンチオールを自己組織化(self- assemble)法を用いてミセル型分子集合体(MTPミセル)を作製する技術を開発した (特許) [8]。特に正20面体状の外形をもつAuの多重双晶粒子を核としてその表面に鎖状のチオール分子を吸着させ、イガ栗(またはウニ)状のMTPミセルを作製し、電子顕微鏡観察、X線回折、NMR等の方法でその構造や物性を研究した。このMTPミセルの水溶液や固体化・結晶化させた物質は非常に興味深い物理化学的な性質を示すことが期待される。またこのMTPミセルは、原子層レベルの金属塗装剤[9]・カラム充填剤・デバイス材料など幅広い応用も期待される。


(6) 1997年4月~2001年3月 東北大学科学計測研究所 表面化学計測研究分野(楠研究室)助手・助教授

(a) 「RHEEDとSTM/AFM複合装置によるダイヤモンド及びダイヤモンド型構造結晶表面の研究」

戦略的基礎研究(CREST)「単一分子・原子レベルの反応制御」の「ダイヤモンド-有機分子の化学結合形成機構と制御に関する研究」(研究代表者:安藤寿浩)として、反射高速電子回折(RHEED)と走査トンネル顕微鏡(STM)/原子間力顕微鏡(AFM)複合実験装置を立ち上げた。主要な成果は以下の通りである。

1.Si(001)表面に、ノズルを摂氏800度にしたエチレン分子ビームを照射すると、基板温度摂氏700度でシリコンカーバイド(SiC)が成長した。特に基板のビーム照射中心ではグラファイトが成長し、これをRHEEDで確認した[10]。
2.ダイヤモンド表面にEpitaxial成長させて作製したダイヤモンド構造の窒化硼素(c-BN)単結晶の(111)表面を原子間力顕微鏡で観察し、格子定数に等しい周期構造を確認した。また摩擦力で表面を観察したところ、2種類の領域があることを見出した。[11]
3.高圧合成ダイヤモンド表面に気相成長させたダイヤモンドのホモエピタクシャル薄膜をRHEED及びAFMで観察して、良質なダイヤモンド薄膜を作製するための条件とその評価を行った。[12]

(b) 「RHEEDと軟X線分光法を組み合わせた表面化学計測法の開発」

科研費基盤研究(B)(研究代表者:高見知秀)の補助のもとに宇都宮大学井野教授との共同研究で RHEEDと組み合わせた表面化学計測法「反射高速電子回折-全反射角軟X線分光法(RHEED-TRASXS)」の装置を試作した。現状では制動放射によるバックグラウンドノイズの問題があるが、これを解決すれば新しい表面化学計測法として有用な分析手法となる。[13]

(c) 「多重双晶粒子(MTP)ミセルの研究」
(1998年8月~1999年3月 科学技術庁金属材料技術研究所 客員研究官[兼務])

金材技研極高真空場ステーション藤田博士との共同研究を行い、また平成10年度は新世代研究所からの助成を頂いた。さらに平成11年度は田中貴金属工業からの助成金を頂いて、ナノメートルサイズ[14]からセンチメートルサイズ[15]までの純金製の正20面体とサッカボールを作製する研究を行った。

(7) 2001年4月~2006年9月 ヴィジョンアーツ株式会社 ヴィジョンアーツリサーチ株式会社 上席研究員

(a) 「ナノテクノロジーに関する基礎研究」

透過型X線レンズ作製法[16]、ナノファーバー作製法[17]、反射高速電子回折(RHEED)用ハレーション防止フィルタ[18]などを考案した。マンハッタンに研究所を創設したが、9.11により撤退。

(b) 「分子位相メモリの開発」(ペンシルバニア州立大学化学科 客員研究員、首都大学東京 客員助教授)

分子の回転振動の位相に情報を記録して演算する方法を首都大学の杉浦教授と考案した[19]。この考案した分子位相メモリを実現化するために、ペンシルバニア州立大学のポールワイス教授のもとで、走査トンネル顕微鏡を用いた実験を行った。特にフタロシアニンやポルフィリンのサンドイッチ構造の希土類錯体がこの分子位相メモリに適用できることを、オーストラリアのクイーンズランド工科大学のアーノルド博士のもとで見出し、その分子を作製した山東大学の姜建壮教授との共同研究によって分子を配列制御することに成功した。[20]

(8) 2006年9月~2007年9月 科学技術振興機構(JST) 戦略的基礎研究(CREST) 川合チーム(大阪大学産業科学研究所)

「DNAを有機分子で修飾して基板固定して可視化する方法を開発」

戦略的基礎研究(CREST)「医療に向けた自己組織化等の分子配列制御による機能性材料・システムの創製」の「プログラム自己組織化による人工生体情報材料創成」(研究代表者:川合知二教授)として、デオキシリボ核酸(DNA)オリゴマーのリン酸部位にオクチルアミンを結合させて修飾することで、修飾したオクチルアミン分子との整合吸着が可能なグラファイト表面に配列させた。これをトンネル電流を1ピコアンペア以下に抑えたハイエンド走査トンネル顕微鏡によって可視化することに成功した。[21]


(9) 2007年10月~2008年3月 東北大学多元物質科学研究所 表面機能システム研究分野 高桑グループ 産学官連携研究員(科学技術振興機構 戦略的基礎研究)

「グラフェンを大口径シリコンウェハに成長させる技術の開発」

戦略的基礎研究(CREST)「次世代エレクトロニクスデバイスの創出に資する革新材料・プロセス研究」の「LSI用3次元カーボン・アクティブ配線の開発」(研究代表者:二瓶瑞久)として、研究分担者の高桑雄二准教授のもとで、次世代配線材料となるグラフェンをプラズマ化学気相成長法(CVD)でシリコンや雲母などの表面に触媒を一切使わないで成長させる方法の開発に従事した。[22]


(10) 2008年3月~2010年2月 ワシントン州立大学化学科 特任助教授

「走査トンネル顕微鏡によるフタロシアニンおよびその誘導体の高分解能観察」

同化学科長のHipps教授の研究室で、フタロシアニンやその誘導体を走査トンネル顕微鏡で観察して、分子内部構造がわかる高分解能測定に従事した。例えば銀表面上の鉄フタロシアニン分子の吸着構造については、表面周期構造を決定するだけでなく分子が下地に対してどのような回転位置に配置しているかを決定した。[23] また、分子吸着表面を作製する際に用いる溶媒の極性を変えることで、分子の表面周期配列を制御できることもわかった。[24]


(11) 2010年3月~2014年3月 建国大学校物理学科 研究教授

「新しいナノプローブ装置の開発」

ガラスチューブをレーザーで熱した瞬間に引っ張ると、口径が100ナノメートル以下のナノピペットを作製することができる。我々はこのナノピペット内に、特定のイオンを捕捉する塩化ビニル製フィルターを作製する方法を開発した。[25] 更に、このナノピペットの位置を制御するロボットも開発した。[26] また、静岡大学工学部機械工学科岩田太教授の研究室との共同研究で、HeLa細胞の内外でのイオン濃度検知にも成功した。[27] 一方で、ナノピペットに特有なイオン電流の非線形振動を発見し[28]、イオン電流の整流作用についても研究を行った。以上の成果をまとめた総説を執筆した。[29]


(11) 2014年4月~2015年3月 広島大学理学部数理分子生命理学専攻クロマチン動態数理研究拠点 特任教授

「全自動細胞注射装置の開発」

細胞へのマイクロインジェクションはこれまでに数多くの装置が製作されている。しかしこれらの装置の多くは手動であり、操作には高い技術とカンや経験が要求されているため、統計学的に有意な母数でのインジェクションを行うことはほぼ不可能である。いくつかの会社で自動インジェクション装置が製作されているが、これらはインジェクションの際にただ機械的にインジェクション操作を行っているだけで細胞への損傷を抑えることが考慮されていないため、自動インジェクションによってほとんどの細胞が死滅しているのが現状である。そこで本研究では、私がこれまでに培ってきた走査トンネル顕微鏡の作製技術を応用して、フィードバック機能をインジェクションプローブに持たせることにより、安全かつ損傷なく細胞へのインジェクションが自動的に行える装置を開発する。この研究開発は現在も継続中である。


[参考資料]
[1] T. Takami and K.Ohno, J. Chem. Phys.,96 (1992) 6523.
[2] T. Takami, D. Fukushi, T. Nakayama, M. Uda, and M. Aono, Jpn. J. Appl. Phys.,33 (1994) 3688.
[3] T. Takami et al., Angew. Chem.(German) 24 (1997) 2909; Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 24 (1997) 2755.
[4] H. Wolf et al., J. Phys. Chem.,99 (1995) 7102.
[5] T. Takami et al., Langmuir, 11 (1995) 3876.
[6] Science, 271 (1996) 181 を参照
[7] 特許:薄膜作製法及び薄膜作製装置、特願平7-117045.
[8] 特許:ミセル型金属微粒子およびその製造方法、特願平8-112066.
[9] T. Takami and S. Ino, Jpn. J. Appl. Phys.,36 (1997) L815.
[10] I. Kusunoki et al., Surf. Sci., 433-435 (1999)167.
[11] T. Takami et al., Appl. Phys. Lett., 73 (1998) 2733.
[12] T. Takami et al., Surf. Sci., 440 (1999)103.
[13] 高見知秀、平成11~12年度科研費報告書"反射高速電子回折と組み合わせた全反射角軟X線分光法の開発
[14] 高見知秀、井野正三 表面科学 20 (1999) 220.
[15] 高見知秀他、東北大学科学計測研究所報告 47 (1997) 49.
[16] US Patent 6,385,291.
[17] US Patent Application No. 09/871,029.
[18] US Patent 6,873,403; 6,878,509.
[19] US Patent 6,762,397.
[20] T. Takami, T. Ye, D. P. Arnold, K.-i. Sugiura, R. Wang, J. Jiang, and P. S. Weiss, J. Chem. Phys. C, 111 (2007) 2077.
[21] T. Takami, H. Tanaka and T. Kawai, Surf. Sci. Lett, 602 (2008) L39.
[22] T. Takami et al., e-Journal Surf. Sci. Nanotech., 7 (2009) 882.
[23] T. Takami et al., Surf. Sci., 603 (2009) 3201.
[24] T. Takami et al., J. Phys. Chem. C, 113 (2009) 17479.
[25] T. Takami et al., Jpn. J. Appl. Phys., 50 (2011) 08LB13.
[26] T. Takami et al., Jpn. J. Appl. Phys., 51 (2012) 08KB12.
[27] T. Takami et al., J. Appl. Phys.,111, 044702 (2012).
[28] X. L. Deng et al., J. Phys. Chem. C, 116 (2009) 14857.
[29] T. Takami et al., Nano Convergence 1 (2014) 17.